2008/08/21

尊厳

















 近頃「食の尊厳を」などという言葉をよく耳にする。爆発的な経済成長を遂げ、その取り巻く物資の豊かさもさることながら、供給される食物の量も目を見張るほど豊かになり、日常生活の中には食物が溢れ返り、食に対する尊厳が失われたと危機を感じ始めたのだ。そこで、食物を大切にしようというのである。

だがそれを、今の若い世代に求めたところで、所詮無理な話しなのかもしれない。もう我々は、食物の生産の場から、完全に離れてしまっているのだ。もはや我々にとって食物は、額に汗して畑を耕し手に入れるものではないのである。今日の我々の社会では、食物はスーパーマーケットやコンビニエンスストアで簡単に、欲する時に欲するだけ、いくらでも手に入るのだ。

 ようするに、もはや我々に食物をもたらしてくれるのは、太陽の輝きでも、肥沃な大地や豊穣の海でもなく、農夫や漁師たちの汗でも、もちろん神や仏でもない。すなわちそれは、「マネー」なのだ。
 そして、そんなスーパーマーケットやコンビニエンスストアでは、マニュアルに定められた時刻になると、まだまだ十分に食べられる食物が、次から次へと大量にゴミ箱へ投げ捨てられている。こんな社会の現実を前にして、いかにして食の尊厳を説くというのか。