奇跡


僕はいつもアジアの田舎を旅していて、すっかりと見渡すかぎりの荒野と化してしまった大地の中に、ポツンと1本だけとり残された孤独な大木を見つけると、必然なのか、それとも偶然なのか、その木が今まで人間に伐り倒されることなく、そこにそうして残ったという奇跡のことを思う。そして改めてまた、人間という生き物のいとなみの壮絶さを思わずにはいられない。

あの大木の木陰に寄り添うようにして戯れていた小さな子供たちがが大人になる頃、あの辺りはいったいどうなっているだろう。あの大木は、まだあそこで無数の木の葉を風に揺らしながら、辺り一面に涼しい木陰を落としているだろうか。またあの大木が、かつてのように多くの仲間たちに囲まれ空いっぱいに枝を広げる日が、はたしてこれからやってくるだろうか。

もしも未来に、そんな日が本当にやってくるとすれば、それは、我々人間がこの地球上から消え去った後のことなのかもしれないが……。